アフリカからの報せと言えば、よくない話に決まっている。だから行きたくなった――怖いもの見たさでも、紛争地帯への関心でも、新聞で読んだ大虐殺と地震の記事のせいでもない。もう一度、アフリカの地に立つ悦びを感じたかったのだ。 紀行作家ポール・セロー。彼のアフリカ縦断の旅を記した『ダーク・スター・サファリ』はこう始まる。紛争、貧困、飢餓――かつて暗黒大陸と呼ばれたその土地はいまもその汚名を払拭しきれていない。政治家と呪術師の区別は曖昧で、善人面の詐欺師にとっての最後のフロンティアになっている。だが、私はいつか必ずこの地を訪れたいと思っている。どこまでも広がる大地、手つかずの自然、もっとも人間らしい人々――人類誕生の地をこの足で踏みしめてみたいのだ。そういうわけで、セローのいう“この地に立つ悦び”を私も感じるために、『FarCry2』をプレイした。 恐縮だが、このゲームは人には勧められない。検問所はボウフラのような生命力で瞬く間に復活するし、車での移動は即座にデス・レースと化す。ミッションは殺すか壊すかの二択しかなく、マサイ族をしのぐ視力を敵全員が持っている。『ダーク・スター・サファリ』の白人農園主の言葉を借りれば「何もかも狂ってる!」というわけだ。 それでも私はこの作品が好きだ。朽ちかけたトタンの小屋、見通しの悪い赤土の道、ゆっくりと流れる濁った河。天蓋のように頭上を木々が覆い、また別の場所ではどこまでも広がる草原が風に吹かれて波紋を作る。車のエンジン音が聞こえたら、それは戦闘開始を告げる開幕ベルだ。幕が開く前に草むらに隠れるか河に潜る必要がある。 この50平方kmもの広さをもつこのオープンワールドにアフリカのほぼすべてが詰まっている。もし酷暑や味覚に合わない食事、銃創を作る心配なしにアフリカを体験したいのであれば、『FarCry2』は最善の選択だ。 | ミッションはこのように進める――。 1.地図を片手に目的地への道順を確認。(地図に載っていない獣道を使ったり、川を移動した方が安全な場合もある) 2.目的地周辺のセーフハイスで装備を調え、夜まで待つ。(奇襲は昔から夜と決まっている) 3.現地に着いたら狙撃ポイントへ移動し、大まかな配置を覚えたら攻撃開始。 4.目標を達成したらあらかじめ用意した車で逃走する。(火炎放射で草木を燃やし足止めをするのも有効) この未開の地では安全地地帯など存在しない。出会う人間すべてが危険なゲームを仕掛けてくる。生存するためには、この例のように自分でプランを組み立て、試行錯誤することが求められる。だからもし、大きな展開を期待してメイン・ミッションを追うだけのプレイならやめたほうがいい。それは『40分で分かるシェイクスピア』を読むようなもの。内容は知れても本質の理解にはならない。サイド・ミッションにも手を出しつつ、できる限り難易度を上げてプレイしてほしい。最高難易度では、ルートの選定や下準備の大切さを身をもって学ぶことになるだろう。 それだけにステルス・メカニクスは判定が曖昧すぎるし、探索要素も味付けがほしかった。匍匐ができればプレイの幅はもっと広がっただろうし、登れる岩場を増やしたら狙撃はもっと奥深くなったことだろう。とはいえ08年の作品であることを考えれば十分に自由で広大で、少なくともグラフィックに関しては古さはまったく感じない。 セローによれば、サファリとはスワヒリ語で旅を意味するらしい。つまり、誰かがサファリに出ているとは、旅に出ていてつかまらず音信不通ということだ。もちろん帰ってくるという保証付きで、あなたも『FarCry2』で音信不通の旅に出てみてはいかがだろう。 Score: 7.0/10 |